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ブラフ 消されるなこの想い 忘れるな我が痛み
Googleが選んだブラフの10個の原則
病院に呼ばれ、
話し合いになったのですが、
その話がどうも噛み合いません。
笑いながら、
でも敵意ある言動を繰り返す奥さん。
なのに、口では、
私に対する敵意を否定する。
訳が分からないまま、
そして、
録音されているので迂闊に喋れないこともあって、
私はしばらくの間言葉を失っていました。
沈黙を破ったのは、
男性医師でした。
日本語での会話を理解した訳ではないでしょうが、
奥さんが会話を録音しようとしていること、
それをYが咎めたことを、
理解したのでしょう。
医師は、事情を確かめようとはせず、
奥さんに向かい、
録音を止めるように言いました。
流石に、
了承を得ずに会話を録音しようとするのは、
褒められる行為ではありませんから。
「分かりました。一旦録音はやめますね」
奥さんが言います。
一旦、という言葉に引っかかりはしましたが、
確かに録音はやめたようでした。
しかし。
私は口を開くことが出来ません。
さっきのレコーダーはブラフで、
どこかに別の録音機を隠し持っている可能性だってある。
憔悴しきったT、
微笑む奥さん、
睨みつけるY、
頭を抱える私。
私達を不思議そうに見る二人の医師。
昼前の精神病棟の一室、
何のためだかさっぱり分からない時間が流れます。
やがて、医師が話し始めました。
答えるのは、笑顔の奥さん。
Tはこれから日本に帰るのか、と尋ねます。
奥さんが頷きます。
日本に住居はあるのか？
ありません、奥さんは言います。
親はいないのか？
Tの親がいます。
一緒に住まないのか？
嫁姑の同居は大変ですし。
奥さんは笑いながら言います。
仕事はあるのか？
ありません。
医師が私の方を見ます。
「Tに仕事を紹介出来るか？」
出来る筈がない
私は思います。
私は思います。
私自身の仕事探しすら、難しいのに。
代わりに、協力しますと言おうとしましたが、
危うく思いとどまります。
録音されている。
どんな言質を取られるか分からない。
私はただ、黙って首を振ります。
その後も、医師と奥さんの、
明るい、そして空虚な会話が続きます。
時間が過ぎます。
私は焦燥感を覚え始めました。
折角ここまで来て、
時間を無駄にしただけで帰る訳には行かない。
ちらりとTを見ます。
俯いたままのT。
笑い声をあげる奥さんの横で。
私は口を開きました。
すみません。
医師と奥さんが、同時にこちらを見ます。
「お願いがあります」
何、という表情で私を見る彼ら。
私は出来るだけはっきりと、中国語で言います。
「奥さん、席を外してくれませんか？」
間髪入れず、奥さんの返事。
「どうしてですかぁ？」
笑顔。
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