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ここだけの話が好きな人に悪い人はいない

●モルモットのチロル

占いの仕事をしていると、

時々どうしても相談者の仕事上の裏の話を、嫌でも耳にしてしまう時があります。

ある時、某動物園で働いているという20代のメグミさん(仮名)から、

主に結婚についての電話相談を頂きました。

占い師といえでも、守秘義務があると思うので、

さすがに今回は、某動物園とさせて頂きます。

そうしないと、今回の話の内容が内容だけに、炎上しかねませんので。

メグミさんは、大学を卒業後、しばらくOLをしていましたそうですが、

昔から動物が大好きで、中途採用で動物園に入社したという経歴の持ち主でした。

動物園に入ると、いきなり主にサルの飼育担当を任される様になったといいます。

彼女いわく、ここで働くには、ホントに動物が好きでないと務まらないと思いますとの事。

サルを含めて、どんな動物の担当になっても、常に気を抜けないし、

女性であっても、どこの場所も力仕事が要求されると言います。

サルは小さくて扱いやすそうですが、意外と力が強く油断が出来ません。

果物を手渡して食べてくれる姿は可愛いですが、その間にも体調の事を気遣ったり、

他のサルと喧嘩しない様に、一ヶ所にエサをあげないで、数か所に分けて置いたり、

高い所の枝や葉っぱを切ったり、サルたちを一旦室内に入れた後、

食べかすを手で拾い集め、糞を塵取りで集めた後、

デッキブラシでゴシゴシ掃除するのもかなりの力仕事だそうである。

その上、最初は新人という事で、サル達にバカにされたりする事もあったという。

しかも、毎日朝6時半起きで、帰って来た時はぐったりで、

将来の彼と出会う時間も作れないと彼女はこぼした。

そんな彼女に対して私は、貴方はとても心優しい人ですから、

そんな貴方の良い所を感じとって、必ず良い人が現れますからと、元気づけたものでした。

生き物の世話をするというのは、ホント大変だと思います。

私も今年に入って、野生のスズメにエサをあげたのですが、()

やがて、お腹を空かせたハトも3羽来るようになり、可哀想だからハトのエサも置くようになりました。

すると、今度はその鳥たちを狙って、野生の野良猫が庭に来るようになったのです。

野良猫に、鳥が食い殺されるのは可哀想だと思い、来るのは多分相当お腹が空いているのだろう、

鳥を狙わない様に、可哀想だからそのノラ猫にもエサをあげる様になると、

最近はそのノラが他のガールフレンドのノラに教えたのか、ノラ3匹が来る様になって、

知らぬ間にうちの庭は、ちょっとしたホームレスの炊き出しの場の様になっとるわ。

ちょっと話が逸れたので、話を元に戻します。

すみません、今日のお話は、残酷なシーンがありますので、

動物好きな方は、ここから先は読まないで下さいね。

もしくは、先に誰かに読んでもらってから、感想を聞いて下さいね。

それまで主にサルの飼育に携わっていたメグミさんでしたが、

ある日、ふれあい広場に2名の欠員が出たので、ヘルプに回って欲しいと頼まれたそうです。

ふれあい広場とは、お客様が実際に動物と触れ合える場所だそうで、

子供がモルモットやハツカネズミや、ニワトリに実際に手で触れる場所です。

メグミさんにとって、ふれあい広場は天国の様な場所です。

正直、サルも可愛いけど、仕事は裏方で、直接お客さんと話す機会も余り無い職場でした。

それに対して、ふれあい広場には沢山の子供達が来て、動物に触れて喜んだり、

一緒に写真を撮ったりと、すぐ目の前でお客様が喜ぶ様子が分かるのです。

モルモットが小さい通路を行列で行進する様子は、メグミさんも大好きで、

子供達も可愛い、可愛いと大人気。

小さくて可愛いモルモットを世話するのも、大好きだったといいます。

「ああ、いつまでも、このふれあい広場で働きたい。」

そう思ったそうです。

毎朝、早起きするのも苦にならなかったそうです。

誰よりも早くモルモットたちの所に行き、まずは全体的に体調の悪い子はいないか見て、

それから、お客様の子供達に抱かせた時に怪我しない様にと、

毎朝モルモット達の爪と歯をチェックです。

爪は少しでも白い部分があると、その子を膝の上に抱いて、

専用の爪きりでカットします。歯もその時チェックして長いと切ります。

膝に乗せて爪を切る時でも、それぞれ個性が出るそうで、

いつも暴れる子もいれば、まったく動じない子もいれば、泣く子もいるそうです。

でも皆可愛いモルモットで、彼女はそれぞれに分かる範囲で名前を付けたそうです。

特に一番彼女が好きだったのが、金髪の模様の様なモルモットで、

彼女がふれあい広場に来た時から、彼女に懐いでくれて、

向こうも朝彼女が出勤すると、一番に彼女の方に寄って来てくれる子だったといいます。

彼女はその子にチロルと名付けて、朝出社すると、

一番に「チロル、おはよう!」と声をかけたといいます。

他にも、とにかく足の速い佐助や、ノロノロの年寄の白黒オジンと、白黒オバン、など。

白黒オジンと白黒オバンの2匹は年寄で足はノロかったものの、他の子の面倒見が良かったのか、

白黒オジンと白黒オバンの周囲にはいつも何匹か集まっている状態でした。

ただ似ている模様が多いので、全部に名前を付けるの無理でしたが、

目立つ20匹くらいには、名前を付けて呼んでいたそうです。

ところがある日、

彼女がチロルの事を呼んでいるのを聞いた先輩飼育員が、近寄って来て、

「あんまり名前を付けて可愛がらない方がいいよ。」と注意してきたのです。

正直なんでぇ?と思ったそうです。

なぜなら、サルの飼育をしている時は、全部のサルに名前を付けていたからです。

やがて、

先輩飼育員が言った意味が、身に浸みて分かる時がやってくるのでした。

それはある日、彼女が2日ぶりに出勤してきて、

いつもの様にモルモット達の爪を切っていた時でした。

彼女はある事に気が付いたそうです。

白黒オジンと、白黒オバンが、いない!

いそいで、全部のケージを調べたのですが、どこにもいません。

数を数えると、2匹足りません。

彼女はしばらくしてやってきた先輩飼育員に、2匹が見当たらない。

もしかしたら逃げたかもしれないと言いました。

先輩飼育員は、彼女が付けた白黒オジンと白黒オバンの名前など知りませんから、

足が比較的遅い白黒模様のモルモット2匹がいないと説明しました。

すると、先輩飼育員は、平然として、こう言ったのです。

「ああ、あの足の遅い白黒のモルモット2匹か。

 あれだったら、昨日、猛禽類(もうきんるい)の方に回したよ。」

猛禽類(もうきんるい)とは、コンドルとかハゲワシなど、

小さい動物を捕まえて食べる肉食の大きな鳥の事です。

そうです。

あの白黒オジンと、白黒オバンの2匹は、昨日、

生きたまま、コンドル達のエサとなってしまったのです。

他の先輩に聞くと、ふれあい広場に居るモルモットやハツカネズミの内、

弱ってきたり、怪我した子は、生きたままヘビの檻に入れてエサにされたり、

タヌキの檻に入れたり、コンドルに捕獲させたりするのだそうです。

そうやって野生の感覚を保たせるのに役に立つそうです。

分かってます。

自然界がそうだって、分かってます。

それでも、涙が出て来て、胸が苦しくなります。

あんなに子供達を楽しませてくれてたのに・・・・

彼女は、ふれあい広場の方が、サルよりも辛かったと言いました。

それから彼女は、なるべくモルモット達を名前で呼ぶ事を止めたといいます。

ただ、モルモットのチロルだけは別でした。

この子だけは、最初にここに来た時から、彼女に懐き、

まるでチロルが先頭になって、メグミさんを他の子に紹介してくれたかのように、

チロルがメグミさんに懐くと、他の子もメグミさんに懐いてくれた様にも思えました。

だから、先輩飼育員の方が居ない時は、チロル!と声をかけていました。

チロルはまだ若くて元気でしたから、当分エサになる事もありません。

チロルだけを見て頑張ろう。そうメグミさんは心に決めて働いたといいます。

ところが、ある日、


チロルに悲劇が訪れたのです。

ふれあいの時間中、まだ不慣れな子供がモルモットを抱く時に驚いて、

チロルを落としたのです。そして運悪くそこを通った子供がチロルの足を踏んだのでした。

チロルは足を引きずるようにして、私の方に這って来ました。

それはまるで、お姉さん助けて。と言って私に助けを求めている様でした。

私は急いでチロルを抱き上げると、安全な所に持っていき休ませてから職場に戻りました。

その後、メグミさんが心配していた事が現実になります。

先輩飼育員の判断で、チロルは猛禽類(もうきんるい)の檻行きが決まったのです。

メグミさんは必死に先輩飼育員に命乞いのお願いをしましたが、

「こういう経験も、動物を飼育するのには必然な事だから。」と却下されました。

チロルの運命は決まったのです。

メグミさんは覚悟を決め、こう言ったといいます。

「分かりました。

 どうせ殺すなら、私が自分の手で猛禽類係りの所に持っていかせて下さい。」

「いいだろう。」と先輩飼育員は許可しました。

メグミさんは、チロルと最後のお別れをしてから、猛禽類係りの所に持っていったのでした。

その後、彼女は結婚すると、

すぐに動物園を辞めたといいます。

実は、この話には続きがある。

結婚後、彼女から1度だけ電話があった事がありました。

その時に、ああ、あのモルモットのメグミさん?と思い出し、

「あの時は辛かったね。」と私が言うと、

彼女は、「実はここだけの話ですが・・・」と、切り出すと、

チロルは、今、私の所に居ます。」と言うのだ。

あの時、彼女は猛禽類係りの人に、泣いて頼んだという。

すると、猛禽類係りの人は、しょうがないなぁという顔をしながらも、

「いいよ。エサにした事にして書いておくから。」と言ってくれたというのだ。

「ありがとう。ありがとう。

 大事にするから。」

現在、彼氏とメグミさんと、チロルの3人で幸せに暮らしている。

END

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