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江口 新しい「目」で、新しい「心」で、政令市新潟
冒頭から総評とは全く関係ない話で恐縮ですが、本作の第二部を『ナディア』に擬えて島編と呼び始めたのは私が最初ではないかと思うのですが、どうでしょう? え? そもそも島編と呼んでいたのは私だけ? そらそうか。
さて、毎年恒例の大河ドラマ総評記事ですが、今年は、
こちらをお読みのうえ、固有名詞を『西郷どん』仕様にテキトーに脳内変換して頂けたら、いいたいことの六割七分くらいは伝わるんじゃあないかと思いますので、これにて終了!
あ、やっぱり、ダメ? うーん、いいアイデアと思ったんですけどねぇ……ぶっちゃけると似たような内容のダメ出し長文を書くのはキツイのよ。『平清盛』や『直虎』のように、それなりのオリジナリティを出してくれると駄目出しでも書き甲斐があるのですが、同じ過ちを何度も何度も繰り返されると、それを批評するためにタダでさえ貧弱な私の語彙が更にカツカツになる自己嫌悪に陥って、作品のクオリティも相俟って、どんどんやる気が削がれていくという、まさに負のスパイラル。同じ主人公マンセー路線で何回しくじれば気が済むねん。まぁ、@数日で鬼が笑わなくなるとはいえ、心置きなく来年の大河に集中するためにも、上記のリンク先では伝えきれない残りの三割三分をお届けするべく、今年の大河ドラマを総括することに致します。宜しくお願い申しあげます。え? 最終回の感想? ねーよそんなもん!
さて、今年も何から語るべきか頭を悩ませましたが、ここは困った時のキャラクターランキングから入りましょう。勿論、ベストではなく、ワーストのほう。尤も、後述するようにキャスティング自体は近年稀に見るハイレベルな選出であったうえ、俳優さんの熱演も相俟って、作品のクオリティの割に嫌いなキャラクターは意外と少なかった。その意味で以下に述べる三名は本作の欠点を凝縮した存在といえるかも知れません。それでは、
『西郷どん』キャラクターワースト3
を発表致します。ランキングは順不同で以下の通り。
キャラクターワースト3 一人目……フキ
まずは『西郷どん』視聴者にとってのワーストキャラクターの最大公約数的存在と思われるフキちゃんが順当にランクイン。選出理由は二つ。一つ目は登場しなくてもストーリーの展開に何も影響しないキャラクターであったこと。こんな架空のキャラクターに費やす尺があったら、他に描くべきことが幾らでも存在した筈である。もう一つは無駄に尺を費やしてまで描かれたフキちゃんの言動が、ピンポイントで視聴者の不快感を刺激したこと。自分を苦界から救った慶喜よりも、自分を苦界に沈めた側に属していた西郷への盲目的な狂信ぶり。慶喜の側女でありながら、幕府の内情(それも伝聞に基づく不確定な憶測)を西郷に垂れ流す卑劣な背信行為。そして、その結果、西郷に『慶喜は異国に国土を売り払おうとしている売国奴』という勘違いを植えつけて、戊辰戦争の火蓋を切ったことへの自覚の欠如。極めつきは大政奉還で幕府の失政の責任を取り、鳥羽伏見で錦旗に逆らうことなく部下を置き去りにして大阪城から撤退して、戦意がないことを示している慶喜に対して、
フキ「謝ればいいではありませんか? あの方は心根のお優しい方です! 貴方が心から悔い改め謝れば、必ず許して下さいます!」
と具体的に何を謝ればいいかも説明せず(実際、作中の慶喜には西郷に謝らなければならないことは何一つしていないので、説明出来ないのは当然なのだが)、立場を弁えずに前将軍へ謝罪をゴリ押しする増上慢ぶり。うぬは何様だ。そして誰の女だ。『上様が朝敵になろうとも、妾は何処までも御伴致します』くらいの台詞を言ってみやがれ。
上記のように『本作はクオリティの割に嫌いなキャラクターは少なかった』と述べたが、例外は女性キャラクター全般。フキちゃんにかぎらず、本作の女性陣は御由羅を除くと薄気味悪いほどに西郷LOVE女しかいなかった所為で(嫌いとまではいかないまでも)誰一人好きになれなかったことも特筆しておきたい。大久保の内縁の妻もそう。嫁が息子と一緒に旦那の友人と聞こえよがしにキャッキャウフフするとか、NTR属性でもないかぎり、亭主の精神歪むに決まっているだろ。直後に大久保が大した理由もなく、唐突に悪堕ちするのだが、恐らく原因はそれだと思う。
キャラクターワースト3 二人目……桂小五郎(木戸孝允)
当ブログを御愛読頂いている方々の殆どがお前は何をいっているんだとお思いになったに違いない、二人目のワーストキャラクター。勿論、玉山鉄二さんには何の不満もありません、念のため。玉鉄は『八重の桜』で山川を演じた記憶も新しく、当初は佐幕派から討幕派へのジョブチェンジに違和感を覚えるのではないかとの懸念も抱いたが、終わってみれば、今世紀の大河ドラマでもトップクラスの桂となった。桂と木戸。この『同一人物でありながら微妙にイメージの異なるキャラクター』を大河で違和感なく演じた俳優はケーナさん以来ではあるまいか。
しかし、否、そうであるからこそ、本作以外のもっとキチンとした幕末大河で玉鉄が演じる桂を見たかったとの思いを抱いてしまう。大河ドラマにかぎらず、同じ俳優が同じ役柄を演じるケースは決して多くないことを考えると、本作はキャスティングが完璧であればあるほどに絶望感を覚える作品であった。鈴木さんの西郷を筆頭にエンケンさんの勝や松田翔太さんのラストタイクーン、ナベケン斉彬に青木三郎といった神キャスティングを、斯くも無残な脚本で消費してしまった本作の罪は極めて重い。それを最も判りやすい形で御伝えするため、敢えて挙げた次第である。
更につけ加えると、本作の桂は『西郷どん』では珍しく、言動にブレや矛盾が少ないマトモなキャラクターであったことも逆に違和感を覚えた。勿論、玉鉄の演技力や存在感が第一義であるが、西郷大河で大久保よりも桂が優遇されるのは異常でもある。禁門の変に際して、長州が御所を逐われていた理由を描かなかった件を筆頭に、主人公と敵対する人物をとことん下衆く描くことに定評のある本作にしては不自然なほどに長州sage描写が少なかったことについて、一部の視聴者が特定の勢力に対する斟酌と受け取ったのもやむを得ない仕儀であろう。私自身は上記の推測には同意しかねるが、作品のクオリティが低い所為で痛くもない腹を探られたのも確かなので、弁護や反論は差し控えたい。
キャラクターワースト3 三人目……大久保利通
ワーストキャラクターの項目で書くのも矛盾しているが、大河ドラマのメインキャストは意外とミスキャストが少ない。まず、大河ドラマというネームバリューゆえの事前審査の厳しさ。次に一年スパンに渡って視聴者に見て貰う分、ミスキャストの場合のダメージの大きさを慮るのか、選出には思いきりのよさよりも手堅さが求められること。そして、新人が抜擢された場合でも、長期に渡って同じ役を演じるため、俳優も視聴者もキャラクターに入り込む時間的猶予があること。その他諸々の理由から、序盤は違和感を抱くキャスティングでも、最終回近くでは見慣れてしまうケースが殆どである。
それにも拘わらず、本作の大久保は初登場から退場に至る全ての場面で違和感しか覚えなかった。江口信長や東出玄瑞やシンゴママ勇をも凌駕するレベルのミスキャスト。個人的にはデーブ・スペクターが織田信長を演じるくらいのムリ筋。殊に明治編以降の、
粘着性の高い下卑た含み笑い
は内臓にサブイボが立つレベルの生理的嫌悪感すら抱いた。大久保は悪く描いてもいい。恐ろしく演じてもいい。俗物設定や西郷へのヤンデレ気質も大いに結構。しかし、下衆な負け犬じみた描写や芝居は断じて認められない。
俳優は監督や演出の意向を尊重しなければならない。それは承知しているが、同じように本作で西郷ageのために徒に貶められたチャカポンや御由羅や三郎やヒー様や会津中将や江藤の中の人には素直に労いの気持ちを抱けたことに比べると、そうした感情を毛の先程も感じることが出来なかった本作の大久保には、やはり、キャスティングに致命的な欠点があったと思わざるを得ない。つけ加えると本作では中の人が嘗て演じた小松帯刀が登場して、しかも、今回のほうが(圧倒的に出番が少ないにも拘わらず)作中の扱いといい、俳優の存在感といい、遥かに『篤姫』のナヨゴローを凌駕していたのも減点材料となった。自分でサラッと書いておいて何だけど、大河で『篤姫』以下って大変なことやと思うよ。これは教育やろうなぁ……。
以上が『西郷どん』キャラクターワースト3です(次点は岩公&桐野)。この三名を除くと……といっても、逆説的な意味でランキングした桂も含めて、純粋にキャスティング面では『真田丸』にも匹敵する神憑り的な大河ドラマであったと思います。逆にいうとこれほどの魅力的なキャスティングを以てしても駄作と化したところに、本作の救い難さがあるといえるかも知れません。毎年恒例の採点は10点。脚本と演出でマイナス200点。キャスティングで210点。ただしナヨ久保、テメーはダメだ。
では、具体的に何がいけなかったのか? うーん、これは悩むなぁ。いや、欠点が見つからないのではなく、逆に、
と玉鉄のツッコミを喰らいそうなレベルに沢山あり過ぎて、いちいち解説していたら容量オーバーで記事をUP出来なさそうなのですよ。それこそ、冒頭で記したように『江』や『軍師官兵衛』や『花燃ゆ』の総評の固有名詞を脳内変換して頂くのが、最も判りやすいのではないかと思います。一例を挙げると『サスガカンベージャ!』⇒『サスガセゴドンジャ!』や『タイヘーノヨノタメ!』⇒『タミノタメノクニヅクリ!』とかね。
それでも、パッと思いついたツッコミどころを箇条書きにしてみると、
・必要最低限の歴史描写がない。
・その代わりに挿入されたホームドラマが絶望的につまらない。
・意味もなく何度もブチ込まれる謎のウナギノルマ。
・土俵や温泉などの何処に需要があるか判らない謎のセット推し。
・大切なことはすべて『紀行』が教えてくれた。
・幕末大河のメインテーマが『好きな者同士が結婚できる世になったらいい』。
・四部のナレーションが菊次郎視点と脚本家視点の間でブレブレ。
・第一部の篤姫プッシュをロングスパンで回収出来ない。
・第二部の島編プッシュをロングスパンで回収出来ない。
・第三部の龍馬プッシュをロングスパンで回収出来ない。
・第四部の菊次郎プッシュをショートスパンでも回収出来ない。
・主人公が寺田屋事件直後に愛加那とイチャラブ南国バケーションを満喫。
・主人公が善悪を超越して穢れを生まずにいられる稀有な存在。さすロゼ。
・主人公が弟のツケを支払うだけでモテモテ。尚、支払いの出所は奄美黒糖地獄。
・主人公が戦災に見舞われた民の横で犬の生存に満腔の笑みを浮かべるサイコパス。
・主人公がよりにもよってあの慶喜に『お前は何を言っているんだ?』と問われる。
・主人公の説得コマンドが土下座と戦争の二種類しかないクソゲー仕様。
・敵も味方もド低能腐れ脳ミソで、何かというと『腹を割って話そう!』。
・幕末薩摩大河で薩英戦争完全スルー。
・特番で歴史監修担当者がこれまでの西郷どんはタダのいい人とぶっちゃける。
・信用出来るかどうか判らない政治犯をアポなしで政権VIPに会わせる。
・何時の間にか長州が京を追われている⇒その説明を完全スルー。
・西郷「幕府は既に腐りきっている」⇒その説明も完全スルー。
・西郷「誰も幕府のいうことを聞かない」⇒その説明も完全スルー。
・全ての説明をスルーされたのに何故か納得してしまうパークス。
・慶喜が生きていたら民が苦しむ。だからまずは江戸市中に火をかけろ。
・戊辰戦争の直接の動機は慶喜に対する主人公の早とちりと勘違い。
・西郷「民を蔑ろにする政治では国は立ち行かない!」⇒つ『奄美黒糖地獄』
・西郷「日本国の行く末を担う者の生命を多く救いたい!」⇒戦やめろよ。
・薩摩隼人のBLを描くといったな。あれは嘘だ。
・赤報隊のエピソードをやるといったな。あれも嘘だ。
・西郷と篤姫の絆が江戸無血開城に繋がるといったな。あれも嘘だ。
・林家正蔵六、特に見せ場もないのに登場&退場。
・男・勝海舟、上野に西郷の銅像が立つと予言。
・第四部になっても桐野と村田と川路の見分けがつかない。
・西郷頼母の妹と恋仲になった土方が自害の場に駆けつけて『ジュテーム』って絶叫。
・また髪の話してる……(AA略)。
・条公「留守政府は美しい国!」⇒つ『山城屋事件&尾去沢銅山事件』
・『西郷先生は敗れた庄内を寛大にお許し下さった』等の幻の味噌汁の大盤振る舞い。
・薩摩言葉の方言指導の俳優さんに佐賀の江藤を演じさせる謎采配。
・イケボのチベスナに殆ど台詞を喋らせない。
・士族を追い込む政策 ⇒ 西郷決起 ⇒ 新政府「何で西郷は叛乱を起こした?」
・万単位の兵で城を囲む ⇒ 守備側の夜襲 ⇒ 西郷軍「汚いな流石クソチン汚い」
・一年スパンの大河ドラマで田原坂の戦いが正味5分。
・紀尾井坂の変に希望に溢れたBGMを被せる(主人公の盟友が死んでんねんで?)。
うーん、この三軍まで打線組めそうなラインナップ。
正直、これでも書き足りないくらいで、一つ一つの項目に解説を加えていたら、年を越えてしまうのが確定的に明らかなので、やはり、過去記事を踏まえて脳内変換して頂けたらと思います。それと一つだけ別作品の感想が混ざっているけれども、まぁ、そんなに大した問題じゃないよね、うん。
寸評をつけ加えると幕末男性主人公史上最悪大河ということでしょうか。
戦国男性主人公史上最悪大河が『天地人』。
戦国女性主人公史上最悪大河が『江』。
幕末女性主人公史上最悪大河が『花燃ゆ』。
そして、幕末男性主人公史上最悪大河が『西郷どん』。
これで戦国・幕末&男性・女性主人公の最悪大河四天王が揃ったことになります。これ以上、クソ大河を増やすのはやめて欲しいですが、四天王なのに五人いるのは鉄板ネタなので、制作陣が現在の姿勢を改めないかぎりは五人目の四天王が登場するのも遠い未来の話ではないでしょう。やんなるね。
尤も、本作に同情の余地が全くないかといわれると、必ずしもなきにしもあらずやといえなくもない気がしないでもない……と奥歯にチシャの葉が挟まったような表現になりますが、全くのゼロではないと思います。具体的にいうと、
題材に恵まれなかった
ことでしょう。『西郷どん』は同じ近年の幕末大河と比較すると『八重の桜』よりも描きにくい題材であったと考えます。西郷隆盛よりも新島八重のほうが恵まれた題材とか馬鹿にターボがかかってきたのかとお思いかも知れませんが、もう少しお付き合い下さい。
まずは西郷という人物の難しさ。これは以前の感想記事でも述べたように、西郷の『ネームバリューと反比例する判りにくさ』が原因です。政略、軍略、智謀、外交、見識、武勇、実務、ストレス耐性といった数値化可能なパラメータでは同時代人で西郷よりも優れていた人物は数多存在しました。西郷は何か突出した才幹で歴史に名を遺した人物ではない。しかしながら、それでも、維新最大の元勲は誰かとの問いには大久保でも木戸でも龍馬でもなく、万人が西郷の名を挙げるでしょう。それほどに西郷は判りにくい。あの司馬さんでさえ、研究に研究を重ねて、長編十巻にも及ぶ作品を書きあげたうえで、
「これもう(実際に会ってみないと)わかんねぇな」
と結論づけたほどですから、西郷は日本史上最も難解な題材といえます。日本史で西郷に並ぶ人気者というと義経、三英傑、竜馬が挙げられると思いますが、西郷を主人公にしたTVドラ
は彼らに比べると圧倒的に少ないことも、その傍証でしょう。本作への批判の一つに『西郷隆盛という恵まれた題材で、この程度の物語しか描けないのか』との意見を目にしたことがありますが、その意見に私は与しません。
次に主人公サイドの政治劇・謀略劇を描いた大河ドラマが近年にはなかったこと。少なくとも、二〇一〇年代の作品で政治劇・謀略劇をメインに据えた作品は皆無です。『真田丸』も策謀シーンの多くはスズムシのC調キャラに基づいたコメディに昇華するケースが殆どでした。また、同じ幕末劇の『八重の桜』は一生懸命誠心誠意を尽くして頑張ったけれどもダメでした……というか、主人公サイドが謀略を好まなかったから、アレな結末を迎えてしまったという主張の作品なので、会津サイドの政治劇・謀略劇を掘り下げなくても何とかなる題材でした。しかし、西郷が主人公の物語はそうはいかない。何せ、明治維新という生き馬の目を抉る世界の勝利者ですから、政治劇・謀略劇をメインに描かないといけない。でも、それをキチンと描く『基礎体力』が現在の大河にあるか、描けたとしても視聴者にウケるかのデータが十年来存在しないので、そこに踏み込むのを躊躇ったとしても、その責任を本作にのみ負わせるのは酷ではないかと思います。これが八重ちゃんよりも西郷のほうが現在の大河に向かない最大の理由です。
そして、一定の視聴者層の反感や敵意や敬遠。私自身、穏健的佐幕論と段階的解幕論の間で首鼠両端している人間なので、幕府サイドの理屈で物語を眺めてしまう傾向があるのですが、本作に関しては、ネットを中心に私よりも遥かに熱烈な佐幕愛に基づいて本作を語る方が結構おられました。また、私の友人にも、
「幕末ものは現代と地続き感が残る生臭い時代だから『西郷どん』は見ません」
という方が幾人もおられたように、幕末劇は常に一定の視聴者層に敬遠される、或いはイデオロギー論に発展しかねない、そういう事情は汲むべきではないかと思います。
まぁ、そういう事情があったとしても、私は、
松平定敬「この匂いは!」
会津を下衆に描いたことが許せないのではありません。何の論拠も必然性もなく、主人公ageのために敵対陣営をsageるのがダメなのです。『西郷が主人公のドラマだから、会津がワリを食うのは仕方ない』という理屈は成立しません。『八重の桜』はモニカ西郷といい、ミッチー小五郎といい、コータロー慶喜といい、会津とは立場は異なれども、否、異なるからこそ、魅力的な存在として描かれていたじゃあないですか。討幕派と佐幕派、立場が真逆なだけで同じ時代の物語で同じことが出来ない訳がない。でも、地獄の使者はやり過ぎ。
これは昨年の『おんな城主直虎』も同様です。井伊直虎は資料や知名度の点で、西郷とは別のベクトルで難易度の高い題材であり、脚本家が大河初登板という点でも今年と共通していました。昨年の総評でも述べたように『直虎』は必ずしも万人受けしたとは言い難い作品でしたが、それでも、頭から批判する記事にならなかったのは、主人公がロクでもないことを企んだ際にはしっぺ返しを食らい、作中大正義の小野但馬を死に追いやった眉毛にさえ、彼なりの道理があることを描いていたからです。少なくとも、主人公をイイコイイコするために敵対者を下衆に描いてオシマイという安直な作劇とは無縁でした。でも、ヒロインの槍ドンはやり過ぎ。
それに引き換え、本作は登場人物の多く(特に女性キャラクター)が何の取り柄もない主人公を然したる理由もなくチヤホヤチヤホヤと褒めまくり、主人公の予言者じみた未来視点の発言に敵対する人間を徹底して貶めたうえ、それでも、史実的に絶対に『いい人』フォロー出来ない場面(徴兵令とか西南戦争とか)では、実在したかどうかも疑わしい庶民キャラクターを登場させて、強引に主人公を賛美させるテイタラク。勿論、この主人公賛美は具体的な中身が全く伴っていないので、口では『民のため! 新しい日本のため!』といいながら、民の生活を踏み躙り、国を危うくする戦を引き起こす筋金入りのサイコパス主人公を、オリジナル庶民キャラクターが『西郷様は素晴らしい御方!』と絶賛する様は、恰も某国のマスゲームに似た薄気味悪さがありました。こうした主人公無双型・全肯定型の大河ドラマをスィーツ大河と称しますが、今までの『篤姫』や『天地人』や『江』や『軍師官兵衛』や『花燃ゆ』と異なり、主人公が近代の、それも、革命政権で事実上の首班を務めた人物で同様の作劇をすると、スィーツどころか恐ろしく生臭くなることが判りました。判りたくもありませんでしたが。
この際なので、ハッキリと宣言しておきましょう。
俺は日曜夜八時にカルト教団のPVや全体主義国家のプロパガンダ映像を見たい訳じゃあねぇんだよ。
先述のように幕末劇は常に一定の視聴者層に敬遠される、或いはイデオロギー論に発展しかねない事情があります。ハッキリいって難しい題材です。しかし、否、そうであるからこそ、骨太で精緻な政治劇・謀略劇で視聴者を説得・魅了する自信がないのであれば、せめて、登場人物の描写には公正を志すべきでした(『八重の桜』のようにね)。図らずも、ヒー様の中の人がと語っておられたように、様々な思想や理念がぶつかりあうことが幕末の魅力です。そして、同じ人物や組織も状況に応じて、思想や政策が目まぐるしく変容する時代です。それなのに、本作の製作陣には視聴者を納得させ得る政治劇・謀略劇を描く能力がないばかりか個
々の思想や政策の違いや変遷が描けていないうえ、更に題材に対する公正なスタンスを取る気もなかったため、その場その場で主人公が何を考えて行動しているか判らず、ヒー様やナヨ久保といった主人公の盟友として登場した人物も、史実で主人公と対立する段になるや、唐突に敵に回ったように見えてしまった。そして、主人公を絶対正義として扱うから、必然的に敵に回ったキャラクターは下衆な悪役と化したうえ、主人公は主人公で内実を伴わないのに支持率ばかりが異常に高い薄気味の悪い政治指導者になってしまった。本来の幕末劇で描くべきことを描かず、毎回毎回ダラダラと退屈なホームドラマパートやウナギノルマといった描かざるべきことを描いてきた結果、終盤の西南戦争が双方の陣営が何を考えて、何故戦っているかが全く伝わらないという視聴者的バッドエンドに至ったのは理の当然というべきでしょう。
終盤のハイスパット展開に関しては、NHKの『働き方改革』による話数の削減(50⇒47話に変更)報道や、西南戦争に五話は使いたいという脚本家と何とか一話に収めてくれという制作者の話し合いの結果、二話分の尺となった影響という噂もありましたが、仮に通常の放送枠が確保出来たとしても、
「その三話があったところでおめぇに何が出来るんだよ!」
というのが率直な感想です。退屈なホームドラマパートやウナギノルマ(大事なことなので二回書きました)を削っていけば、必要最低限の尺は確保出来た&その時間で必要な歴史描写を盛り込むことが出来たのに、それをやらずにギリギリになって時間が足りなかったとか八月三十一日に夏休みの宿題が多過ぎると泣きを入れるビューティーさん以外のスマイルプリキュア勢と何が違うのでしょうか。喩え@三話あったところで、退屈なホームドラマパートやウナギノルマ(大事なことなので三回書きました)に費やされたであろうことは間違いありません。
随分と話が縒れましたが、要するに今年の大河ドラマがアレになった理由は、
① 明治維新150周年とかいう安直な理由で、身の程知らずにも日本史上、最も難解な題材に手を出した
② 幕末の思想や政策の要素を排した結果、何と『八重の桜』の総集編よりも薩摩の動静が判らなくなった
③ 内外の諸要因から来るスケジュール管理の甘さで内容がぷるんぷるんして万策尽きた
ということではないかと思います。我ながら、この結論はやっつけ仕事感が半端ないですが、本編自体がやっつけ仕事なのですから、評論もやっつけ仕事になるのも仕方ないということにしておいて頂けると幸いです。
最後にキャラクターランキングと共に毎年の恒例となった今年の大河ドラマを食べ物に喩える企画で〆るとしましょう。尤も、これに関しては本作の謎のウナギノルマを踏まえて、ウナギをキーワードにすることを早期に想定していたので、かなり楽に決まりました。扱いの難しさ。高い人気と深い味わい。そして、隠し持つ毒気。ウナギという食材は何気に西郷隆盛に通じるものがあるのも確かですからね。毎回ゴリ押し気味に挿入された本作のウナギノルマも、或いは西郷のメタファーのつもりであったのかも知れません。全然本編で活かせていませんでしたが。最初は最高級・最難関の食材であるウナギを歴史劇に不慣れな料理人が雑に扱っているため、
このシーンを踏まえて未熟な職人が都市ガスで焼いた作り置きのウナギの蒲焼大河とか考えていましたが、単純に名前が長過ぎるのでボツ。幻の味噌汁が乱発された後半の展開から幻のウナギの味噌汁大河というのも思いついたものの、これは字ヅラだけ見ると普通に美味しそうなので、却下。生臭さという点で某メシマズキングダムが誇るウナギのゼリー寄せ大河も候補に挙がりましたが、流石に他所様の国の料理を『西郷どん』の比喩に用いるのは失礼と思い、これも断念。斯くて最終的に選んだのは題材といい、キャスティングといい、セットといい、南国ロケといい、見た目(だけ)は非の打ちどころがない作品である点を考慮して、
ウナギの蒲焼の食品サンプル大河
です。唯一にして、最大の欠点は……その先は言う必要ないですよね?(某人事担当風)
これにて『西郷どん』の総評は終了! 毎年凝りもせずに同じ言葉を繰り返している自覚はありますが、今年が一番キツかった! 昨年よりも書きたいこと(主に批判)は多かったのですが、流石に二年連続で総評記事を越年出来ないというプレッシャーがあった分、精神的には厳しかったかも。自分なりの『ここがヘンだよ西郷どん』という箇所を絞り込むことが出来なかったのも敗因かなぁ。
さて、来年の大河ドラマ『いだてん』ですが……これはホント、現時点では全く想像がつかないです。生来のクドカン作品食わず嫌い王に加えて、時代的にも題材的にも今までの大河ドラマの中で比較可能な材料が皆無なので、どう転がるか見当もつかない。メイキング番組を見るかぎりは『朝ドラ風坂の上の雲』というイメージですが、私は朝ドラ見ない人間ですからねぇ。それでも、敢えて! 敢えて私的大河ドラマの経験値で一番近い心境を挙げるとしたら、
上杉謙信役にGAKCTが抜擢
のニュースを聞いた時かなぁ。聞いた瞬間に『これは当たれば逆転満塁サヨナラ場外ホームランになるけれども、九分九厘アカンやろうなぁ』という感じ。まぁ、ガックン謙信は大当たりしたので、是非『いだてん』も私の予想を覆して欲しいと切に願います。
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久保田オタクも結構いると思ったんだが
江口さん前向いてくださいって